大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和44年(ワ)545号 判決

主文

一  被告らは各自、原告岡田つに対し金一、五七四、八七八円およびこれに対する昭和四四年八月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員、原告岡田千秋に対し金九六九、〇〇〇円およびこのうち九三九、〇〇〇円に対する昭和四四年八月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員、ならびに原告岡田真理子、同岡田豊、同細田益美に対し、それぞれ金八四九、〇〇〇円およびこのうち八一九、〇〇〇円に対する昭和四四年八月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その一を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求める裁判

1  原告ら

(一)  被告らは各自

(1) 原告つに対し金四、一二五、七四三円およびこのうち三、七五〇、七四三円に対する昭和四四年八月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員、

(2) 原告千秋に対し金二、二八六、八二九円およびこのうち二、〇七九、八二九円に対する昭和四四年八月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員、

(3) 原告真理子、同豊、同益美に対しそれぞれ金一、九三四、八二九円およびこのうち一、七五九、八二九円に対する昭和四四年八月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員

を支払え。

(二)  仮執行宣言。

2  被告ら

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

(三)  仮執行免脱宣言。

二  請求の原因

1  被告五月女は昭和四三年九月八日午前七時三〇分ころ、普通乗用自動車を運転し、埼玉県鴻巣市本町三丁目九番二八号附近の県道(大宮桶川鴻巣線)を吹上方面から大宮方面に向かい進行していた際、岡田三次が足踏式二輪自転車で右方から左方に横断し、被告車と三次が衝突し、このため、三次が同年同月一九日山崎病院で死亡した。

2(一)  被告五月女は、埼玉県公安委員会により事故現場附近の最高制限速度が毎時五〇キロメートルと指定されていたのであるから、この速度を遵守し、かつ前方を注視して進行すべき義務があるのに、時速約六〇キロメートルで進行し、かつ前方を注視しないで進行した点に過失がある。

(二)  被告会社は被告車を所有し、従業員である被告五月女に被告車を運転させ、被告会社のため運行の用に供していた。

(三)  したがつて、被告らは三次の死亡によつて生じた損害を連帯して賠償する責任がある。

3  損害

(一)(1)  亡三次の逸失利益(九、〇五八、九七六円)三次は、マツサージ業を営み、一か月一一二、二六四円(一か年一、三四七、一六八円)の収益があつた。三次の余命年数は二一・五八年と推定され、就労可能年数は一二年である。三次の生活費は収益の二七%であるから、これを収益から控除し、中間利息を控除して現価を求めると、九、〇五八、九七六円となる。

(2)  (相続)

(イ) 原告つは三次の妻であり、原告千秋は長男、原告豊は二男、原告益美は長女で、原告真理子は二女であり、原告つは六分の二、その他の原告らはそれぞれ六分の一の相続分をもつて、三次の遺産を相続した。

(ロ) したがつて、右(1)の損害賠償債権九、〇五八、九七六円のうち、原告つは三、〇一九、六五八円を、その他の原告らはそれぞれ一、五〇九、八二九円を取得した。

(二)  原告つの損害

(1) 入院費五〇万円

三次は衝突事故により左腓骨、小頭骨折、硬膜下血腫および脳挫傷を負い、直ちに山崎病院に入院したが、前記のとおり同院で死亡した。原告つは右入院費五〇万円を支払つた。

(2) 付添看護料等一七六、九〇〇円

原告つは付添看護料一四四、〇〇〇円、付添看護人の食費三一、五〇〇円、同人の部屋代一、四〇〇円を支払つた。

(3) 入院中の諸雑費五三、九九八円

原告つは担当医師に対する謝礼二万円、担当看護婦に対する謝礼七、五〇〇円、おむつカバー、氷のう、同吊具代二、四一〇円、金架代四四〇円、ビニール二枚その他代五〇〇円、おむつカバー代一、三〇〇円、寝巻代一、八〇〇円、下着代一、二八〇円、ビニール代三五〇円、白ネル代一、二〇〇円、氷代一二、〇〇〇円、湯タンポ代六〇〇円、ローブ代一一〇円、カツト綿代一〇〇円、サクロフイル代二四〇円、見舞客食事代二、二〇〇円、見舞客茶菓子代一、九九八円以上合計五四、〇二八円のうち五三、九九八円を支払つた。

(4) 葬式費用三五〇、一八七円

原告つは右金員を支払つた。

(5) 慰謝料一〇〇万円

(6) 弁護士費用五二五、〇〇〇円

原告つは本件訴訟を同原告訴訟代理人らに委任し、手数料一五万円を支払つたほか、報酬三七五、〇〇〇円の支払を約束した。

(三)  原告千秋の損害

(1) 慰謝料一〇〇万円

(2) 弁護士費用二七七、〇〇〇円

原告千秋は本件訴訟を同原告訴訟代理人に委任し、手数料七万円を支払つたほか、報酬二〇七、〇〇〇円の支払を約束した。

(四)  原告真理子、同豊、同益美の損害

(1) 慰謝料各七〇万円

(2) 弁護士費用各二二五、〇〇〇円

同原告三名は本件訴訟を同原告ら訴訟代理人に委任し、手数料各五万円を支払つたほか、報酬各一七五、〇〇〇円の支払を約束した。

(五)  損害の填補

(1) 原告らは、自賠法による損害賠償金三五〇万円の支払を受け、このうちから、原告つが一五〇万円を、その他の原告らが各五〇万円を受領した。

(2) したがつて各損害賠償金額から控除する。

4  よつて被告らに対し各自、

(一)  原告つは損害賠償金四、一二五、七四三円およびこのうち弁護士報酬相当の損害賠償金三七五、〇〇〇円を除いたその余の三、七五〇、七四三円に対する不法行為日以後の日である昭和四四年八月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、

(二)  原告千秋は損害賠償金二、二八六、八二九円およびこのうち弁護士報酬相当の損害賠償金二〇七、〇〇〇円を除いたその余の二、〇七九、八二九円に対する同日から支払ずみまで同割合による遅延損害金

(三)  原告真理子、同豊、同益美はそれぞれ損害賠償金一、九三四、八二九円およびこのうち弁護士報酬相当の損害賠償金を除いたその余の一、七五九、八二九円に対する同日から支払ずみまで同割合による遅延損害金

を支払うように求める。

三  被告らの答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(一)の事実は否認する。

同2の(二)の事実は認める。

3  同3の(一)の事実は知らない。

同3の(二)の(1)の事実中、原告つが入院費五〇万円を支払つたことは認めるが、その余の事実は知らない。

同3の(二)の(2)ないし(4)(6)の事実は知らない。

同3の(二)の(5)は争う。

同3の(三)の(1)は争う。

同3の(三)の(2)の事実は知らない。

同3の(四)の(1)は争う。

同3の(四)の(2)の事実は知らない。

同3の(五)の(1)の事実は認める。

四  被告らの過失相殺

三次は視力が不十分であるのに、単独で自転車に乗り、所用の帰途、本件現場にさしかかり、被告車が至近距離に迫つたとき、県道を斜めに横断しようとして被告車の道路上に進出したのであるが、このような場合、三次は被告車の動静に注視して進行すべき義務があるのに、これを怠り、被告車が接近しているのに気付かず、横断を開始した点に過失がある。

他方被告五月女は、右前方のセンターライン附近で、片足を地上について自転車を停止させていた三次が、顔を被告車の方に向けていたので、被告五月女は三次が当然被告車を認識し、被告車の進路上に進出してくるものとは予見できなかつた。

したがつて、仮に被告五月女に過失があつたとしても、軽過失にすぎないのに、三次の過失は重過失であるから、損害賠償額の算定にあたつてこれを考慮すべきである。

五  原告らの認否

右四の事実中、三次の視力が不十分であり、単独で自転車に乗つていたこと、横断中であつたことは認める、斜めに横断しようとしたことは否認するが、その余の事実は知らない。

六  証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二1  〔証拠略〕によれば、被告五月女は被告車を運転し、時速約五〇キロメートルで本件事故現場の手前にさしかかつた際、約五〇メートル前方の県道(幅員九・七メートル)の右端辺に、自転車から降り、これを押して、県道を右から左へ横断しようとしていた岡田三次を発見したこと、三次はやや右斜に向つて横断を開始し、県道のセンターライン上に達し、自転車にまたがり、片足を地上について停止し、被告車の方に顔を向けたこと、被告五月女は約二〇メートルに接近したところで、前記の状態の三次に気付き、やや減速して三次の前方を通過しようとしたこと、ところが三次が横断を開始し、被告五月女は約一〇メートルに接近していたので、急ブレーキをかけるとともに、ハンドルを左に切つたが、間に合わず、県道の左側部分の中央辺で、被告車の前部左側辺を三次に衝突させ、ボンネツトにはね上げて路面に転倒させたこと、当時降雨中であつたこと、三次は身体障害者等級二級であり、両眼の視力の和が〇・〇二以上〇・〇四以下と推定されるが、当時眼鏡をかけていなかつたことが認められる。

以上の認定事実によれば、被告五月女は県道を右から左へ横断しようとした三次を発見したのであるから、三次の動静に注視し、衝突事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、三次がセンターライン上で停止し、被告車の通過するのを待つていてくれるものと軽信して進行し続けた点に過失があり、他方、三次は視力が極度に弱いのであるから、眼鏡をかけてできる限り視力を矯正し、道路を横断するときは、右方から接近してくる自動車の有無および動静に注視して交通の安全を確認して横断すべき注意義務があるのに、これを怠つた点に過失があるものというべく、三次と被告五月女との過失割合は三対七と認定するのが相当である。

2  請求原因2の(二)の事実は当事者間に争いがない。

3  右認定事実によれば、被告らは、三次の傷害およびこれによる死亡によつて生じた損害を連帯して賠償する責任がある。

三  次に損害について検討する。

1  亡三次の逸失利益

(一)  〔証拠略〕によれば、三次は鍼灸術、あんま術マツサージ術の資格を有し、原告つの肩書地で施術にあたつていたこと、原告つもマツサージの施術をしていたが、同原告の収益および三次の諸経費を控除した三次の純収益は一か月一一二、二六四円(一か年一、三四七、一六八円)以上であつたこと、三次は大正六年一月二日生れであることが認められ、平均余命年数が二一・五八年以上であることが推定でき、かつ就労可能年数が一二年以上であると認定するのが相当であり、かつ三次の生活費は純益の四〇%と認定するのを相当とする。右事実によれば、一年間の逸失利益は八〇八、三〇〇円であり、右一二年間の逸失利益につき年五分の中間利息を控除して現価を算出すると、七、四四八、五七四円となる。

(二)  前記の過失割合を考慮すると、被告らは右の損害額のうち五、二一四、〇〇一円を賠償する義務がある。

(三)  〔証拠略〕によれば、請求原因3の(一)の(2)の(イ)の事実が認められ、右(二)の損害賠償債権のうち、原告つは一、七三八、〇〇〇円を、その他の原告らはそれぞれ八六九、〇〇〇円を取得したということができる。

2  原告つの損害

(一)  入院費五〇万円

〔証拠略〕によれば、請求原因3の(二)の(1)の事実が認められる(ただし、原告つが入院費五〇万円を支払つたことは当事者間に争いがない)。

(二)  付添看護料等三四、四〇〇円

〔証拠略〕によれば、請求原因3の(二)の(2)の事実および三次が終始重篤で、昼夜付添看護を必要としたことが認められ、右支出のうち付添看護料および付添看護人の会費一日三、〇〇〇円で一一日間分三三、〇〇〇円ならびに同人に部屋代一、四〇〇円計三四、四〇〇円が本件不法行為と相当因果関係のある損害であると認定する。

(三)  入院中の諸雑費五三、九九八円

〔証拠略〕によれば、請求原因3の(二)の(3)の事実が認められ、原告つは同金額相当の損害を被つたものということができる。

(四)  葬儀費用二五万円

〔証拠略〕によれば、原告つが三次の葬儀費用として二五万円を支出したことが認められ、その余の葬儀費用の支出を認めるにたりる的確な証拠はない。

(五)  前記過失割合を考慮すると、右(一)ないし(四)の損害額合計八三八、三九八円のうち賠償すべき金額は五八六、八七八円であるということができる。

(六)  慰謝料六〇万円

以上の認定の諸事情を考慮すると、原告つの精神上の苦痛は六〇万円をもつて慰謝すべきである。

(七)  弁護士費用一五万円

〔証拠略〕によれば、請求原因3の(二)の(6)の事実が認められるが、前記認定の諸事情および後記5の事実を総合すると、弁護士費用のうち一五万円が本件不法行為と相当因果関係にある損害と認定する。

3  原告千秋の損害

(一)  慰謝料五〇万円

以上認定の諸事情を考慮すると、同原告の精神上の苦痛は五〇万円をもつて慰謝すべきである。

(二)  弁護士費用一〇万円

〔証拠略〕によれば、請求原因3の(三)の(2)の事実が認められるが、前記認定の諸事情および後記5の事実を総合すると、同原告につき弁護士費用一〇万円が本件不法行為と相当因果関係にある損害と認定する。

4  原告真理子、同豊、同益美の損害

(一)  慰謝料各四〇万円

以上認定の諸事情を考慮すると、右原告らの精神上の苦痛は各四〇万円をもつて慰謝すべきである。

(二)  弁護士費用各八万円

〔証拠略〕によれば請求原因3の(四)の(2)の事実が認められるが、前記認定の諸事情および後記5の事実を総合すると、右原告三名につきそれぞれ弁護士費用八万円が本件不法行為と相当因果関係にある損害と認定する。

5  損害の填補

請求原因3の(五)の(1)の事実は当事者間に争いがない。

四  そうすると、被告らは各自

1  原告つに対し損害賠償金合計三、〇七四、八七八円から一五〇万円を控除した一、五七四、八七八円およびこれに対する不法行為日以後の日である昭和四四年八月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

2  原告千秋に対し損害賠償金合計一、四六九、〇〇〇円から五〇万円を控除した九六九、〇〇〇円およびこのうち未払の弁護士費用相当の損害賠償金三万円を除いたその余の九三九、〇〇〇円に対する右同日から支払ずみまで同割合による遅延損害金

3  原告真理子、同豊、同益美に対し、それぞれ損害賠償金合計一、三四九、〇〇〇円から五〇万円を控除した八四九、〇〇〇円およびこのうち未払の弁護士費用相当の損害賠償金三万円を除いたその余の八一九、〇〇〇円に対する右同日から支払ずみまで同割合による遅延損害金を支払う義務があるものといわなければならない。

五  よつて、原告らの請求は、右認定の限度で正当と認められるので、これを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する(なお仮執行免脱宣言の申立は相当でないのでこれを却下する)。

(裁判官 鹿山春男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例